大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2800号 判決 1980年2月27日

控訴人 本田幸吉

被控訴人 国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、左記のとおりの判決と立木引渡を求める部分について仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

「原判決を取り消す。

福島県岩瀬郡天栄村大字湯本字小白森一番山林二八八三町六反歩(二八、五九七、六四一・六二平方メートル)が、

原判決添付図面記載の(い)、(を)、(わ)の各点を順次結んだ線をもつて福島県南会津郡に隣接し、

同図面記載の(わ)、(か)、(よ)の各点と二俣川の上流分岐点932と表示した地点とを順次結んだ線をもつて原判決添付行政裁判所昭和一二年一二月一八日宣告の裁判宣告書記載の福島県岩瀬郡天栄村大字湯本字西平一番山林一三〇二町歩(一二、九一二、三七六・六八平方メートル)に隣接し、

同図面記載の二俣川の上流分岐点932と表示した地点と(た)点とを結んだ線をもつて同裁判宣告書記載の同村大字湯本字鍋山一番山林二〇八町四反一六歩(二、〇六六、八二六・五四平方メートル)に隣接し、

同図面記載の(た)、(ぬ)、(り)、(ち)の各点を順次結んだ線をもつて同裁判宣告書記載の同村大字湯本字蟻ノ戸渡一番山林一六二三町三反八畝一〇歩(一六、〇九九、六四四・四五平方メートル)に隣接し、

同図面記載の(ち)、(と)、(へ)、(ほ)の各点を順次結んだ線をもつて同裁判宣告書記載の同村大字湯本字上河内一番山林二二八七町五反歩(一二、六八五、九一五・二五平方メートル)に隣接し、

同図面記載の(い)、(ろ)、(は)の各点を順次結んだ線をもつて同裁判宣告書記載の同村大字湯本字大白森一番山林四四七町四反八畝歩(四、四三七、八一一・二九平方メートル)に隣接し、

同図面記載の(は)、(に)、(ほ)の各点を順次結んだ線をもつて河内川に臨む、

ものであることを確定する。

被控訴人は控訴人に対し、同図面記載の(ろ)、(は)、(に)、(ほ)、(へ)、(と)、(ち)、(り)、(ろ)の各点を順次結んだ線で囲まれた地域の立木及び同図面記載の(ぬ)、(る)、(を)、(わ)、(か)、(よ)、(た)、(ぬ)の各点を順次結んだ線で囲まれた地域の立木の引渡をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」

二  当事者双方の主張並びに証拠関係は、次のとおり付加・訂正するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  訂正関係

原判決一三枚目裏九行目から一〇行目にかけての「一、七〇〇町歩余(約一六、八五九、四七八・〇〇平方メートル)」を「二、三二六町余」と、三三枚目表一行目の「宮本一芳」を「宮木一芳」と、四六枚目表二行目の「田良宅」を「田良尾」と改め、四八枚目表一一行目の「大川輪澤」の次に「アカニ沢」を加え、四九枚目表三行目の「二月」を「十二月」と改め、同裏一一行目の次行として「一、国有林四百四十七町四反八畝歩」を加える。

2  主張関係

(一)  控訴人

控訴人は本件土地について立木所有の目的で地上権を有しているから、境界確定の訴につき当事者適格を有する。すなわち、昭和一七年九月二六日、当時の本件土地所有者である湯本村と浜田章間において、期間を昭和一七年一〇月一日から向う三〇年間とするが事業の都合により期間を延長することができるという内容の地上権設定契約が締結され、控訴人はその後に地上権者の地位を承継したのである。右地上権について登記は経由していないが、土地の境界確定を求める場合には対抗要件を備える必要はなく、また、被控訴人は、右地上権設定当時から本件土地の範囲について湯本村と争つており新たに本件土地について利害関係を取得したものではないから、控訴人は被控訴人に対して登記を経由していなくても地上権の取取をもつて対抗することができる。

(二)  被控訴人

控訴人の右主張のうち、地上権設定契約の締結を否認し、その余は争う。境界確定訴訟の当事者適格は所有者のみが有しており、土地の処分権能を有しない地上権者は当事者適格がない。

3  証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求は、当審における審理の結果に徴してみても、境界確定の訴については控訴人に当事者適格はなく、右訴は不適法として却下を免れず、その余の請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、以下に付加・訂正するほかは原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。

二1  控訴人は本件土地の地上権者である旨主張するが、その前提となるべき同人主張の湯本村と浜田章間の地上権設定契約の締結を認めるに足りる証拠がないばかりではなく(控訴人本人の当審における右主張に沿う供述はなんら裏付けがなく、採用できない。)、およそ地上権者は当該土地の処分権能を有しているとはいえないから、控訴人が本件境界確定の訴について当事者適格がないことには変りがない。

2  国有土地森林原野下戻法に基づく下戻の判決は、下戻請求者に対して山林の所有権を新たに創設する効力を有すると解すべきことは、「地租改正処分ニ依リ或土地カ官有ニ編入セラレタルトキハ……私人ノ所有権消滅シテ国カ原始的ニ所有権ヲ取得スル」(大正三年一二月一九日大判、判決録二〇輯一一二一頁)のであるから、「下戻ヲ受ケタル者ハ其下戻ニ因リテ新ニ所有又ハ分収ノ権利ヲ取得スルモノニシテ国有以前ニ遡リ所有者若クハ分収者ノ権利ヲ認メラルルモノニ非ス」(明治三七年四月二〇日大判、判決録一〇輯四八五頁)という大審院判例に照らしても明らかである。

3  原判決三七枚目裏六行目の「川内山川」を「河内川山」と改め、三八枚目裏一行目から五行目までの全文を「検証調書には前記の大川輪沢は字上河内一番に、アカニ沢入の一部は字東平一番にそれぞれ該当するし、大川涯は字上河内東平、小白森に該当する部分があるが、その範囲について関係当事者間で必らずしも明らかではない旨の記載があることが認められ、右認定に反する証拠はない。」と改め、三九枚目裏二行目の末尾に「なお、前掲検証調書その他本件に提出された行政裁判関係資料中には、(C)地域が旧藩時代以来字小白森と呼称されていたことを認めるべきものは見あたらない。」を加える。

4  前掲検証調書添付検証図の作成経過と信憑性(原判決三九枚目裏一〇行目から四〇枚目表一一行目まで関係)について、次のとおり補足する。

前掲乙第三号証、成立に争いのない甲第三九号証(原本の存在も争いがない。)、乙第一四、第一五号証によれば、右検証は、行政裁判所評定官が当事者双方の訴訟代理人、湯本村村長立会のうえ、更に同村の助役・収入役のほか部落総代等請求土地の事情に明るい地元民も加わつて実施したものであるが、検証図は当事者双方が検証の基本図とすることに同意した参謀本部陸地測量部作成の地図を一万二〇〇〇分の一に拡大したものを用い、その図上に右地元側出席者で協議したうえ訴訟当事者に争いのないその当時の字の名称・位置・範囲等が表示されていることが認められ、少くとも小白森、西平、鍋山、大沢の各字については、その形状・位置関係は、明治二一年調製の森林地取調書の図面(成立に争いのない乙第五号証)及び昭和一五年八月一日に当時の所轄登記所が税務署から引き継いだ字限地図(公文書であるから真正に成立したものと認められる乙第一八号証)に表示されている該当部分の記載にほぼ吻合していることが認められる。なお、検証図には請求土地に含まれていない土地の字名が多く表示されているが、これは、右図及び検証調書の記載から明らかなように、検証図を本件第一二五四号事件のほか明治三八年第一七三号事件にも共用したためである。

原判決四〇枚目裏一行目から三行目までの全文を次のとおり改める。

「そして、右検証図と弁論の全趣旨によれば、(A)地域が検証図に表示された小白森一番に該当することが認められ、右認定に反する証拠はない。」

5  原判決四一枚目表二行目の「前提とし、」を「前提としている。」と改め、同行の「(A)地域の……」から四行目の「……基本にしている。」まで、及び四二枚目裏三行目から四行目にかけての「、同藤原寅三郎、同藤原健の各証言」を削り、四三枚目表五行目の「成立に争いのない」を「公文書であるから真正に成立したものと認められる」と、同裏九行目の「検証調書の記載」を「検証図の記載」と改める。

原判決四四枚目表一行目から七行目までの全文を次のとおり改める。

「西平との境界と断定するためには、さらに明確な証拠が必要となる。右の点を含む境界について、証人藤原寅三郎及び控訴人本人の各供述(原審及び当審)中には控訴人の主張に沿う部分があるが、控訴人は地元出身又は居住者でもなく、昭和一九年ころ地元民から案内されて現地の事情を知つたものであり、右両名間においても西平と小白森の字境については一致しておらず、前掲乙第一五号証で別件証人星重左ヱ門は、字西平は御鍋神社の西方に位置している旨控訴人の主張に沿う供述をしているが、字境のことはよく分らないとも述べていること、他方、成立に争いのない甲第二六、第三八、第四〇(原本の存在も争いがない。)、第四一、第四五号証、前掲甲第三九号証、乙第一四号証並びに弁論の全趣旨によれば、別件証人佐藤信平(甲第三八号証)は、字西平は八三林班の地域であるとしているが、同林班は(C)地域のほぼ西側半分を占めていること、同証人星実(甲第三九号証)、同小山治右衛門(乙第一四号証)は、いずれも前掲検証図に小白森、西平と表示されている部分は、全般的にみて少し西方寄りに修正されるべき旨述べるにとどまり、同証人星四郎(甲第四〇号証)は、字西平には二俣川の本流がある旨述べているところ、右本流は(C)地域のほぼ中央部付近を通つていること、同証人小山和三郎(甲第四一号証)は、控訴人主張境界線の北側は字二俣である旨供述していることが認められ、かように関係証人の多くは控訴人が主張する前記境界線及び(C)地域のすべてが字小白森一番の一部であることに消極的なところが見られる。当審における検証の結果によれば、御鍋神社付近で二俣川の本流から分れて西方に走る三川の沢沿いの辺り一帯は平坦になつていることが認められるところ、控訴人は、同所付近が字西平のほぼ中央部にあたる旨主張するが、右の地形から同所が字西平であるというには十分でない。

なお、控訴人の主張する各字の位置関係(昭和五三年四月一七日付控訴人準備書面添付図面)が、前掲検証図に表示されているものよりも、甲第三四号証の切絵図(前記行政裁判所事件において原告村から甲号証として提出されたもの。)に記載されている各字の位置関係と全般的にみてより相応しているとまでいうことは困難である。

また、前掲甲第三八、第三九号証、乙第一四、第一五号証等によつて、昭和一三年二月所轄営林署が下戻土地の引渡として湯本村に(A)地域を引渡した際、下戻土地の範囲について村民との間に紛議を生じたことが認められるが、同証拠自体に徴し、下戻土地の範囲が(A)地域を超え控訴人主張の範囲のものであると認めるには足らない。」

6  原判決四四枚目表一〇行目の「別紙図面……」から同裏二行目「……いえないし、」までの全文を次のとおり改める。

「別紙図面記載の(ろ)、(り)の各点を結ぶ線は、前掲甲第四五号証、同藤原証人、同控訴人本人の各供述(原・当審)によれば、山稜の頂点と沢の分岐点を基準にした点とを結ぶ線であり、各点相互間で見通しは十分ではなく、その中間辺りには切れ込んだ渓谷が横切つており、境界線に沿つて通行することは困難であることが認められるが、そうだとしても前記北東の境界が控訴人主張のとおりであることを認めるに足りる証拠も亦ないのであつて、却つて、」

三  以上の次第により、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中永司 宮崎啓一 岩井康倶)

原判決添付図面<省略>

原判決添付の裁判宣告書<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例